[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
お誕生日おめでとう!エース!
ということで、遅刻ですが遅刻ですけど、お誕生日に何か更新。
ホントに何かだよーマジもー。
私の中のエースくんがいまいちトンガリボウヤなので、素直に誕生日祝いの明るくて賑々しい話にならないのは仕方ないんですけどね。
誕生日を喜べるのは、祝ってもらって育った人だけだと思うのですよー。
エースのような生い立ちの人がおいそれと自分の誕生日を喜べるかなあと疑問ですしね。
当たり前に人が持っているものを何ひとつ持たずに生きてきたエースには難しいでしょうし、祝ってもらった経験のない人って、喜んでいるのにどう喜んでいいのか、案外わからないものですよね。経験って大事です。エースもそうなんじゃないかと思います。
新年を新世界の海で迎えた。
あいにくと朝日を拝める海域ではなく、闇色に染まった空は晴れ渡っていて、星々が煌めいていた。
新年を祝う宴会と、末の弟の誕生日を祝う宴会は、大晦日の昼間から未だに賑々しく続きている。さすがに酒を過ぎてしまって、マルコはふらりと宴会の席を離れた。
普段なら夜番の者がいる見張り台も誰もおらず、喧騒が届かない船首は、しんと静まり返っていた。軽い足取りで、クジラを模した船首にあがる。潮風は火照った身体に心地よかった。
船首の上で潮風に当たっていると、馴染んだ人の気配がした。一瞬、気配は途切れ、一歩離れた場所に降り立った。
「こんなとこに居たの」
どこか拗ねた口調は、彼の若さを思わせる。マルコが顔をあげると、そこには今日の主役の一人でもあるエースが立っていた。
「宴会はどうした?」
「抜けてきた」
「主役が抜けちゃ、締まらねェだろい」
「おれをダシに飲みたいだけだろ、いつだってあんたらは何かあるっていうと宴会だって大騒ぎだ」
「そういうお前も酒は飲まねェが、たらふく食ってるじゃねェか」
「そりゃそうだけどさ」
マルコにやり込められて、エースは頬を膨らませた。今日はとりわけ子供のような仕草が目に付いた。誕生日ということで、エースが無意識に甘えているのか、それとも誕生日だから、マルコがエースを子供扱いしたいのか、どちらにしろ、今日のエースは態度が柔らかく扱いやすかった。
「ここ、座っていい?」
「構わねェよい」
右にずれて隙間を空ける。クジラの船首の上は丸みを帯びていて、座れる部分が少ない。自然と二人は密着した。
「星、きれェだな」
「この辺は空気が澄んでるからな」
「あれ、なんて星座」
「……お前それで船長やってたのかよい」
まさか有名な北斗七星をエースに指さされ、マルコは呆れた声を出した。
「操舵は他の奴がやってたんだよ」
エースはぼやくが声に力はなかった。マルコは小さく笑う。
「お前、いくつになった?」
「二十になったよ」
「もう二年になるのかよい、早いもんだな」
「正確には二年と二ヶ月だけどな」
「お前が意地張ってた間は入れてねェからな、二年であってるだろい?」
「あんた、意地悪ィよな!」
「長く生きてるんでな」
くすくすと笑い、マルコは煙草を取り出した。口に咥えると、エースが指先に炎をともす。潮風を片手で遮って、煙草に火をつける。紫煙があがった。
「あんた、二十の頃はなにやってた?」
「何も特別なことはねェよ、今と同じで海賊だったしな」
「能力者だった?」
「いいや、まだだな」
「いつ悪魔の実を食ったの」
「今日はやけに質問責めだな」
紫煙を吐きだして、マルコが苦笑する。表情は柔らかく、嫌がっている様子はなかった。
「今日なら答えてくれる気がしたから」
「いつだって答えてやるよい」
「うん、そうだな」
曖昧に頷いて、喉まで出かかった言葉をエースは必死に飲みこんだ。
他愛もない会話を続けながら、エースは隣の男をそっと覗き見る。金糸の睫毛は短く、笑うと目尻が下がり、印象が柔らかくなる。青瞳は海の色に似て、感情の起伏で色を変えた。厚めの唇は意地悪く弧を描くこともあれば、大口をあけて笑うこともある。大きな手は節張っていて、エースの頭を撫でるときは乱暴で遠慮がなかった。髪を掻き乱されて嫌がってみせたが、大きな手が離れる瞬間は寂しかった。
そう感じる心に名前をつけるのは、簡単だった。
サッチに感じる好意と同じならよかった。白ひげに感じる尊敬と同じならよかった。そのどちらでもない気持ちは、エースの手に余った。
大切なものを守る難しさを知っている。愛する人を失う苦しさを味わった。心を許しあって、失うのは怖い。何も得なければ、苦しさも少なくて済む。
けれど同じくらい、大きな手が他の誰かに触れるのが嫌だった。それが家族でも、行きずりの娼婦でも、嫌で堪らなかった。
何度も好きだと言おうとした。愛を告白しようとして、青瞳を見つめた。瞳の奥に柔らかい拒絶を見つけた。家族の親愛以外の感情を向けられたくないのだ。
だからエースは諦めた。一度気付いた想いは消せないけれど、言葉にすることを諦めた。
煙草の吸殻が夜の海に消える。放物線を描く白い吸殻を見つめながら、エースはゆっくりと立ち上がった。
「もう戻るな」
マルコの返事も聞かずに、エースは甲板に飛び降りる。着地すると甲板が僅かに軋んだ。灯りの方に足を向けると、上から声がする。
「エース!」
名前を呼ばれ振り仰ぐと、船首からマルコが乗りだしていた。
「ひとつ言い忘れてたよい」
「なんだよ!」
「誕生日おめでとう」
目を細めて、マルコが笑う。ありがとう、と礼を返したかったのに、エースは声を出せなかった。
「お前が生まれてきてよかったよい」
マルコは今どんな顔をしているのだろう。どんな顔で言ったのだろう。無性に知りたかったが、エースは確認することができなかった。
テンガロンハットを深く引き下ろし、ただ声を殺す。そうしなければ、今にも大声をあげて泣き出してしまいそうだったからだ。
≪ 老後の話が1番テンションあがる | | HOME | | 子エース ≫ |