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冬コミ用に書いたけど途中でくじけた一品。
マルコが男だってことと、サッチがルーキーだったということ以外、ほとんど「あいのつづき」と似たような設定。エースは10歳くらい。←自分で書いた話の設定くらい記憶してー。15歳の模様。
マルコが育てたので非常に懐いています。
もちろん続きません。エースがちっさくても萌えないようです、そりゃそうだ。
つらつらと夢見心地のエースの耳に喧騒が届いた。聞き覚えのある声が、野次と歓声を投げ飛ばし、甲板は大騒ぎのようだ。
ひとつ欠伸をして、エースは上掛けの中で身じろいだ。習い癖でベッドの右側に手を伸ばす。いつもなら隣にある温もりは、すでに消えていた。
「……いつもは寝汚ェくせに」
上掛けの中で身体を丸めて、エースは嫌味ったらしく言ったが、それを聞いてくれる相手はいない。ただの独言になったことに気付き、エースはますます腹が立った。丸めた手足を伸ばし、ゆっくりと血を巡らせる。寝起きの頭は鈍く、なかなか思う通りには動かなかった。
エースが白ひげ海賊団の一員になったのは、今から十五年前だ。まだ赤子であった。ポートガス・D・エースというのが、エースの名前だ。母親の姓を名乗っている。
まだ幼かったエースが、白ひげに引き取られることになった経緯の詳細は知らされていない。エースも尋ねたことはなかったが、物心着く頃には傍にいたマルコから、実の母親は産褥で死んだことだけ教えられていた。
名目上のエースの父親は、白ひげことエドワード・ニューゲートだが、実際にエースの世話を一手に引き受けているのは、白ひげ海賊団の一番隊を預かる、不死鳥の二つ名を持つマルコだ。
エースとは二十の年の差があるが、普段はあまり年齢差を感じず、エースにとっては、良き兄、良き友と言ったところだろう。
マルコは白ひげ海賊団立ちあげ当初から船に乗っていて、最も古参の家族だ。
多種多様な種族が存在する新世界の海においては、人は小さく見える。白ひげの息子達にも巨人族との混血や魚人なども多く、彼らから比べるとマルコは小柄な方だったが、生粋の人間としては長身だ。身体的な差を埋めるために、マルコは努力してきた。その証拠に大抵の武器はうまく使えるし、不得手もない。
能力者になってからは、体術を主として戦うため、鍛えられた肉体は細身のようで、ぎっしりと筋肉が詰まっている。マルコの打撃は家族の誰よりも重い。それに覇気を乗せた打撃を食らえば、酷い衝撃だ。手加減をされてもなお、胃の中が逆流する。勝負という名の手合わせで、エースは一度も勝てた試しはない。
育てた子供が嘔吐する様を冷えた目で見下ろすマルコの眼差しは怖かった。
一見すると冷たく見える、マルコの海のような鮮やかな青い瞳は、笑うと一変する。
普段は眠たげな瞼に隠れて、戦闘態勢に入れば冷徹になり、家族とともにいるときは温かい色になる。エースの一番のお気に入りだ。目が糸みたいに細められて爆笑する笑顔も好きだったが、海の色を覗かせて微笑まれるのが堪らなく好きだった。
笑いながら伸びてくる大きな手も好きだ。節張った大きな手で頭をくしゃくしゃにされるのは格好つけたい年頃のエースにとっては嫌だった。けれど、それは愛情の証だったから、文句を言いながらも、エースは我慢している。マルコが気易く人に触れることなどないからだ。
欠伸をしながら甲板に出ると、そこは家族達が大騒ぎしていた。多くの者は縁に乗り上げ、船の外を見下ろしている。またどこかのルーキーが白ひげに挑戦しにきたのだろうか。どうせ勝てっこねェのに、とエースは鼻白んだ。
四皇の名に恥じない実力を持つ父親は、エースが知る限り負けなしだ。膝をつく姿など想像もできない。白ひげに挑むルーキーを野次するのは、家族の暇つぶしにすぎなかった。
大騒ぎする家族の間をぬって、見知った背中を見つける。駆け寄って腰に飛びつくと、髪を撫でられた。
「なんだ、起きたのかよい」
「寝てらんねェよ、煩ェもん」
唇を尖らせて文句を言うと、マルコは目を細めた。それだけで随分優しい顔になる。
「またルーキー?」
「そんなとこだな」
エースの両脇に手を差し入れて、いとも簡単に抱き上げる。縁の上に乗せられ、マルコの肩に凭れかかった。下を覗くと、白ひげにボコボコにされる男の姿があった。
「もうボロボロじゃん」
呆れたように言うと、マルコが喉の奥で笑った。
「そう言うなよい。これが案外持ってんだ」
ふうん、と気のない返事をする。エースにとって、白ひげとマルコ以外に興味がなかった。可愛がってくれる家族は皆大事だが、その質が違う。
「ほらな、立ち上がった」
他の人間なら戦意を喪失してもおかしくないほどのダメージを受けながらも、鳶色の髪の男は立ち上がった。その姿を眺め、口角をあげる白ひげの顔と、どこか嬉しそうなマルコの顔が気に入らなくて、エースは唇を尖らせた。
「お前がエース?」
乾いた洗濯物を抱えて、甲板を行き来するエースに声が降ってきた。立ち止まって振り返ると、そこには件の男が立っていた。ところどころに青痣や、傷跡が僅かに残るだけで、すっかり傷は癒えていた。
「なんだよ、しゃべれねェの?」
黙ったままエースが見上げていると、鳶色の髪の男は困ったように顎を撫でた。
「呼び捨てにすんな」
刺々しいエースの返事に気を損ねたふうもなく、あー…悪い悪い、と言って宥めるように笑った。
「お前がマルコの世話してる子供だろ?」
「だったらなんだよ!」
エースが怒鳴ると、男は目を丸くした。
「なんだよ、そんな怒るなよ。どんな子供か気になっただけじゃねェか」
「用はそれだけかよ」
「ん、まァ、そんだけなんだけどよ」
困ったように笑って、頭を掻いた。
「おれはサッチだ、よろしくな」
そう言ってサッチは手を差し出した。差し出された大きな手を一瞥すると、エースは何も言わず踵を返した。あっという間に見えなくなる。
「今時のガキはわかんねェなァ」
ぼりぼりと頭を掻いて、サッチは深く息を吐いた。
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