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124 ①

サッチとエースを練習中。


 空腹を覚えて、マルコは自室を後にした。薄暗い通路を抜け、甲板に出ると、甲板の上はシーツが潮風に煽られていた。
 シーツの波を抜けて、食堂へ向かう。ちょうど朝と昼の当番が入れ替わる時間で、随分と混雑していた。空きの席を探して視線を巡らせるが、見渡す限り厳つい男だらけだった。
「こっち、空いてるぜ」
 諦めて踵を返した背中に声がかかる。振り返ると寝起きのせいか、髪を下ろした四番隊のサッチが片手を振っていた。
 その向かいの席に最近家族になったばかりのエースが座っている。エースの目の前には空になった皿が山積みになり、テーブルを占領している。エースの横の椅子だけが空いていた。
 はあ、と大きく息を吐くと、人の波をぬって、二人のテーブルまで歩いた。エースの背中を蹴りつけて、片付けろと命じると、文句を言いながらも山積みになった皿を片づけ始めた。ようやく綺麗になったテーブルを眺め、椅子を引く。
「エース、ついでになんか持ってきてやれば?」
 珍しく鳶色の髪を一つに束ねたサッチが笑う。椅子に腰を落として、エースを見やった。
「マルコ、なに食う?」
「適当でいい」
「肉はやめとけよ、おっさん、胃もたれすっからな」
「うるせェよい」
「あ、何、肉駄目なの?」
「駄目じゃねェんだよ、こいつ、どうせ酒しか飲んでねェから、朝からがっつり食えねェのよ」
「わかった、適当に持ってくるよ」
「スープ忘れんなよ」
 サッチの一声にエースは手を振った。そのままキッチンカウンターに向かい、コック達と話し始める。その背中を見送って、マルコは頬杖をついた。
「そんなにガン見すんの、やめてくれる?」
 おどけた口調で、サッチが言った。言葉の意味が掴めずに、マルコは首を捻った。
「あー…、だからよ、誤解されんだろ」
「誤解?何の誤解だよい」
「エースがお前を好きだからさ、あんまり見つめられると誤解されるだろ、迷惑なんだわ」
「別にてめェを見てるわけじゃねェよい」
 馬鹿か、とマルコは呆れた顔をした。
「まあそうなんだけどよ、若いってのはわからねェからな」
「くだらねェ」
 マルコが吐き捨てると、サッチは苦笑する。青瞳の視線の先を追って、ますます苦笑した。
「そんな珍しいかよ」
「リーゼントじゃねェのは、珍しいだろい」
「まあな」
 サッチの頷きと同時に、山盛りの料理を乗せた皿がテーブルに置かれた。その量の多さにマルコは顔を顰める。
「誰が食うんだよい」
「おれも食うよ、こっちがマルコの分な」
 マルコの目の前に置かれた数種類の皿の上には、オムレツと海王類のソーセージ、温野菜のサラダ、厚切りトーストが数枚と、コンソメスープが盛られていた。
「足りなかったら言ってくれよ、おれの分、わけてやるし」
「……足りなかったらな」
 二人が食事をする様子を眺めつつ、サッチはマグカップに口をつける。圧倒的にエースのペースが早くみるみるうちに皿の料理が片付けられていく。粗方、料理を片付けるとエースは満足そうに腹をさすった。
「やっと満足したか?」
「甘いモンが食いてェかも」
「食い過ぎだよ」
 サッチが呆れた声を出すと、わかってるよ、とエースは拗ねたように答えた。エースの横では黙々とマルコが食事を続けている。マルコも小食でもなく食事の速度も遅い方ではないが、エースと比べれば、誰もが小食に見えるし、食事の速度も遅くなった。
「マルコとサッチって、案外、仲がいいんだな」
「どこが?」
 間髪いれず答えたのはサッチだったが、マルコも顔をあげ、エースを見やる。二人から見つめられて、エースはたじろいだ。
「え、や、席空いてるとか言うからさ」
「それくらい言うだろ、意味わからねェよ」
「あんま二人しゃべらねェじゃん、マルコもジョズといることが多いしさ、サッチは四番隊の奴らとか、おれとかティーチといるだろ」
「ああ、そういう意味な」
「しゃべることがねェんだよい」
「えっ?そうか?サッチ、面白いよ」
「それ、フォローのつもりかよ」
 あり得ねェ、とサッチは鳶色の髪を掻き乱した。
「こいつらのしゃべることなんか、どうせ女の話に決まってんだろい。いつまで経ってもガキみてェに騒いでやがる」
「枯れたお前に言われたくねェよ」
「あー、それはすげェ多いよ、サッチ、女の子好きだからさァ、あとおっぱい好きすぎて、ちょっと引くな」
 マルコは尻派だろ?とエースは笑いながら言った。誰から聞いた?と凄まれて、エースは素直に目の前のサッチを指さした。
「嘘じゃねェだろ!つか、エース!お前もぺらぺらしゃべんな!」
 マグカップを乱暴に置いて、サッチはエースを睨んだ。
「おれは金髪が好き」
「ンなこたァ知ってるからよ」
 お前の金髪は女じゃねェだろうが、と突っ込みたかったが、目の前の冴え冴えと冷えた青瞳の鋭さに背筋が震えた。
 マルコはエースの気持ちに気付いていながら、それを無視している。その事実に気付いた当時は、サッチもムカついていたが、エースの明け透けな言動を見守っているうちに、むしろ好かれたマルコに向かって、ご苦労さんと労ってやりたい気分になりつつあった。物事には限度が必要だ。
 だが、当のマルコの無視の仕方も凄かった。どうやったらそこまで華麗に無視できるのだという、まさに神の領域である。案外、この二人は破鍋に綴蓋になりそうな気もするが、そこにたどり着くまでの道のりに巻き込まれたくはなかった。
 サッチの心配をよそに、エースはしきりにマルコに話しかけ、マルコは適当に返事をしていた。皿を空にすると、マルコは顔をあげ、サッチに声をかける。
「ご馳走さん、片付け頼んでいいか?」
「おう、構わねェよ」
 サッチの返事を受けて、マルコは立ち上がる。そのまま出口へ足を向けた。
「マルコ!おれも行く!」
 悪い、サッチ、と両手を合わせてサッチを拝み、エースは慌ててマルコの後を追う。マルコに追いついて見上げるエースの嬉しそうな顔と、マルコの素っ気なさを目にして、サッチは一つ溜息をついた。

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