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無配コピー本の再録

loveletterのおまけコピー本の再録です。



 パチン、という表現が妙に似合っていた。
 呆けたような顔で、マルコは何度も目を瞬かせる。大して痛みも感じなかったが、マルコは現実認識のため、叩かれた頬に指を這わせた。
 ぬるり、と指先が滑る。少し不快に思ったが、濡れているのはマルコの手の方だ。赤い指先は紅を刷いたようにも見える。だが、実際に指先を濡らすのは血液で、甘い化粧の匂いはない。
 指先が血に濡れたのは、敵船から飛んできた砲弾に飛び出したせいだった。すでに再生して、傷跡は消えているが、砲弾に抉られた際、飛び散った血は、衣服や皮膚にくっついていた。
 
 それは、ほんの数分前の出来事だ。
 砲弾を破壊できる距離ではなかったし、たとえ無事破壊できたとしても、爆風と破片で船に傷をつけることになる。修理の面倒を考えるだけでうんざりした。
 だから砲弾の前に身を乗り出した。その結果、マルコの左上半身が吹き飛んだ。
 完全に向こう側が見えるほどの穴が開くような威力では、不死鳥の能力があっても、酷い痛みを伴う。再生すら瞬時に行われなかった。あまりの痛みに、マルコの意識が飛んだ。
 意識が戻ると、すでに戦闘は終了していた。僅かに視線を巡らせ、周囲を窺う。甲板では煙が燻ぶり、焼けた臭いがした。死臭すら吹き飛ばすほどの威力は、エースの炎に他ならない。業火は何ひとつ残さず燃え尽くしてしまうのだ。
 案の定、視線をあげると、マルコの目の前には、エースが酷い顔色で立っていた。
 失くした腕は再生されていたが、わずかな痺れが残る。何度か手を握っては閉じてといった動きを繰り返して、動作を確認する。血を失いすぎて、全身が酷くだるかった。ふるふると震える足を叱咤しながら立ち上がると、エースが何か言いたげに口を動かした。
 結局、それは言葉にならず、エースは悔しげに唇を噛んだ。
「助かったよい」
 肩を鳴らしてから、再生した左手でエースの肩を叩く。通り過ぎ様、手を掴まれた。予想外の行動にマルコが振り向くと、エースは険しい顔で睨んでいた。
「あんた、いつもあんな真似してんのかよ」
 問いかけるエースの声は尖っていた。詰るような響きがあった。
 それがマルコには意外だった。誰よりも我先へと、エースは戦場に突っ込んでいく。無鉄砲さでは抜きんでているエースに行動を責められている。
「なんで大事にしねェんだよ…!」
 いつもと立場が逆だと感じて、マルコはおかしくなった。
「船を大事にしただろうが」
 からかい混じりに返してやると、エースは眉をつりあげた。それと同時に平手が飛ぶ。
 パチン、と軽い音が鳴った。
 一瞬、何が起きたのか、マルコには理解できなかった。エースをまじまじと見つめ、ぽかんと口を開けている。叩いたエースの方が泣きそうだった。唇を噛みしめて、エースは顔を背けた。
 マルコが引き止める間もなく、エースはその場を走り去っていった。
 
「どうよ、弟に注意された気分は」
 どこから見ていたのか、サッチがにやけた顔で近づいてくる。叩かれた頬に這わせた手を引っ込めて、マルコはサッチに向き合った。
「鉄砲玉に文句言われるとは思わなかったよい」
「まァなァ、エースに言われたくはねェわな」
 ほらよ、と布切れを渡される。血を拭え、ということだろう。舌を鳴らして、サッチの手から引っ手繰った。
「さっきのは、お前が悪ィだろ」
 布切れで指先を拭う。爪先に染み込んだ血の痕はなかなかとれなかった。
 さっきの、とは砲弾の前に飛び出したことか、それともエースを揶揄したことか、マルコには判断しかねた。
サッチは皆に優しいが、新しく家族になったエースのことは特別に可愛がっていた。
 マルコもエースのことは可愛いと思っているし、エースに懐かれていることも知っている。だが、時折、さきほどのように心配が高じて責められることが面倒だった。
 古い家族は、マルコの無謀を責めない。
 それは大事な兄弟の身を案じていないわけではなく、サッチを含め、古くからマルコを知る家族達は、皆、何度も忠告している。
 それでもマルコは一向に改める気配がなかった。だから、諦めた。
 口うるさく言って不機嫌になられるよりも、マルコに悟られず安全を確保してやる方が、ずっと建設的だと思ったからだ。
 エースはまだ家族になって日が浅く、またマルコへ向ける感情も、サッチらとは種類が違う。
 必要以上に案じて、口喧しいのは、仕方のないことだ。エースよりも二十近くも年上のくせに、マルコは何もわかっていない。エースの気持ちも、不安で堪らない想いも、何一つ、知ろうとしないのだ。
「おれの何が悪いんだよい」
「わかってるから、突っかかるんだろ」
「わからねェよい」
「いちいち言ってやらなきゃわからねェのか?」
 ふざけた口調の奥に、サッチの本心が見え隠れする。マルコには何も言い返すことができなかった。
「ちゃんと機嫌とってやれよ」
 苛々と指先を拭うマルコの肩を軽く叩く。拭う動きを止め、マルコは眉間に皺を寄せた。
「なんでおれがエースの機嫌を取らなきゃならねェんだよい」
 どこか拗ねたような声でマルコが返す。
 子供じみた表情と、尖った唇は見習い時代を彷彿とさせる。
 あの頃もマルコは、年上に叱られても、絶対に謝らなかった。諭されれば逆に意固地になって、始末に負えない天の邪鬼なクソガキだった。懐かしさにこみ上げてくる笑いを必死に噛み殺して、サッチは真面目な顔をしてみせた。
「弟の機嫌取りも兄ちゃんの仕事だろ」
 それになァ、と言い置いて、サッチは顎髭を撫でる。
「お前は飛んじまったからわからねェだろうけどよ、あのときのエースの顔を見たら、誰だってエースの味方になるってもんだ。いい加減、ちったァ自分を労われよ」
 優しい仕草で肩を撫でられ、マルコは困ったように視線を彷徨わせる。やがて小さな声で「悪かったよい」と呟くと、エースの消えた方へ歩き出した。
 
 方々で尋ね歩くこと三十分。ようやくエースを見つけた。
 人気も疎らな船首の上で、一人佇んでいた。支柱に隠れて、姿が見えない。こんな場所をよく見つけるものだと感心する一方で、エースの孤独をマルコは知った。
 マルコがエースと同じ年の時分は、孤独など感じる暇はなかった。オヤジの息子になったばかりで、功を焦っていた。そして何より、マルコには白ひげがいた。サッチがいた。ジョズが、ビスタが、たくさんの家族がいた。
 捨ててきた故郷には、血の繋がった家族もいる。孤独に震える夜を知らず、マルコは常に誰かに愛されてきた。
 白ひげに憧れて、海に出た。出航する前日に母親は少しだけ泣いたが、翌朝には笑って送りだしてくれた。マルコは愛されていた。そして、今でも愛されている。マルコは孤独を知らない。独りであることを知らなかった。
 茜色に染まるエースの姿をじっと見つめる。
 おそらく独りになりたいときに訪れるのだろう。黒いくせ毛が潮風に揺られている。鍛えられた背中に刻まれるのは、エースの誇りだ。沈みゆく夕日に照らされて、まるで炎に包まれているかのように赤い。
 声をかけることを躊躇うほど、エースの背中は孤独を帯びていた。
 たかが十代の子供がどれほどの重荷を背負ってきたのだろう。子供とは思えない、隊長としての実力が、振る舞いが、誰かに頼ることを許されなかった幼少期の孤独を思わせた。
 数歩下がったところで、マルコが躊躇していると、エースが振り返った。マルコの顔を見て、一瞬、笑みを浮かべ、すぐに先程の怒りを思い出したのか、また唇を引き結んでしまった。軽い足取りでマルコは二人の距離を縮める。あと一歩というところで足を止め、エースを見つめた。
「さっきは悪かったよい」
「悪いなんて思ってねェだろ」
 間髪入れずに本音を暴かれ、マルコは否定することもできなかった。
「サッチに言われたんだろ?おれの機嫌取ってこいって、餓鬼を宥めてこいって言われたんだろ!」
 夕日が沈みかけている。徐々に茜色が夜の衣を纏いはじめていた。夕日を背負ったエースの表情は、影が濃く、マルコからはよく見えなかった。
 それでもエースの声の調子で、昂る感情を必死に抑えているのだとわかる。それが怒りなのか、悲しみなのか、マルコには判断できなかった。もしかすると、その両方かもしれない。
「エース」
 名前を呼んで、腕を伸ばした。エースの肩が反応する。けれどエースは、マルコが差し伸べた手を拒まなかった。指先を触れ合わせる。少し深爪気味の、節張った男の手だ。指先を結んで、エースの顔を覗きこむ。今度はちゃんと黒瞳が見えた。不安に揺れている。
 そばかすの浮いた、あどけない頬は、エースがまだ十代の子供なのだと、マルコに教えてくれる。
 頬を撫で、引き寄せると、こつん、と額を合わせた。間近で見つめ合う。黒瞳から不安が解けていくのがわかった。
「あんた、ずるい」
 頬に当たるマルコの手を押さえて、エースは触れるだけのキスをした。
「当たり前だろい、おれはお前より長く生きてるんだからよい」
 お返しのようにエースの唇にキスをした。エースの後頭部を押さえて、舌をねじ込んだ。甘い雰囲気が台無しだと思ったが、負けじとエースの舌が吸いついてきた。散々吸いあって唇を離すと、唾液の糸が引く。舌を出して舐め取って、マルコは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんたって、本当にずるいよ」
 真っ赤な顔でエースは唸ると、シャツの襟を掴み、マルコを引き寄せた。ぽってりと甘い唇に噛みついてやった。
 
 一度口を離すと、筋の縫い目にそって、舌を這わせた。先端から零れ落ちる雫を舐め取って、荒い息をつくエースを見上げた。
 あどけなさの残る頬は、熟れたりんごのように真っ赤だ。ベッドの上で膝立ちになって、快感に潤んだ目でマルコを見下ろした。これ見よがしに、赤い舌を出して、味わうように舐め上げていく。唇をすぼめて竿を締め上げながら、ジュルジュルといやらしい音を立てて、爆ぜた肉を吸った。
「マル…コ、ま…てって…!」
 汗に濡れた金糸の髪をエースは掴んで引き離した。普段なら拳骨が飛んでくること間違いなしの行為だが、マルコは不満げに眉をあげただけだった。
「遠慮なく出しちまえよい」
 誘うようにマルコは濡れた唇を舐める。エースの呻き声と共に、手の中の昂りが脈打った。二十も年上の、普段はだらしないオッサンだというのに、この壮絶な色気は反則だ。深く息を吸って、呼吸を整えると、エースはマルコを見つめた。
「……入れさせてくれよ」
 我ながら情けないお願いだとエースは思ったが、マルコの許可がなければ、触ることすら命がけになるのだ。実際にマルコの制止を無視して、指を突っ込んだことがある。途端に意識が飛んだ。エースはマルコにボコボコにされた。それこそ容赦なく、顔が変形するほどだ。
「気分じゃねェよい」
 冷たく返されて、またしゃぶられる。エースの鼻から甘い息が漏れた。
 口でしてくれるだけ有難いと思うべきなのだろうか。マルコの舌に翻弄されながら、エースは複雑な気分になった。
 マルコがエースの相手をするのは、別にエースを愛しているからではない。家族としての好意はあるだろうが、そこにエースの望む愛情は存在していない。
 今の行為も、単なるご機嫌とりだ。
 そこにエースの欲しがる感情はない。そうと知っていても、マルコに触れるのは嬉しかった。荒い息を吐きながら、エースはマルコの耳を撫でる。耳朶をなぞり、頬を撫でた。深くエースを咥えこんで、海の色が見上げてくる。
 エースは胸の奥で、何か得体の知れないものが弾けた気がした。堪らなく触りたいと思った。マルコに触れたかった。ぽってりとした唇からペニスを引き抜くと、マルコをベッドに引き倒し、上から圧し掛かった。
「あんたに触りてェんだ」
 忙しなくマルコの胸を弄りながら、エースは切羽詰まった声を出した。
 唾液と先走りで濡れた唇が、忌々しげに舌を鳴らす。腕で瞼を覆い、深く息を吐いて、マルコは力を抜いた。
エースはそれを許可と受け取って、シャツの袖から腕を引き抜き、床へ落とした。
 女のまるく柔らかな乳房とは違う、硬い胸に吸いつく。薄茶色の乳輪ごと口に含み、小さな粒を舌で撫でる。刺激され硬くしこってきた。コリコリとした感触を味わいながら、もう片方にも手を伸ばす。指で触れると、すでにツンと上を向き硬くなっている。膨らみはないから、周囲も一緒に揉み絞った。
「……ンッ」
 甘い息が漏れた。その声音の甘さに、エースの背中が震えた。まずい、と思ったときには、コントロールを失っていた。
 どれほど背伸びしても、エースは年若く、経験に乏しかった。我慢にも限界がある。脱力感に襲われて、エースはマルコの上に崩れ落ちてきた。腹の上に滑りを感じて、マルコは呆れたように嘆息する。
「あり得ねェだろい」
 黒い旋毛を見やり、マルコは容赦なく追い打ちをかけた。
「だから、イッときゃよかったんだよい」
 冷たく言い放ちながらも、マルコは慰めるようにエースの背中を撫でてやった。それが尚更、若者の繊細な心を傷つけたが、エースは何も言わず、黙ってマルコに慰められていた。
 

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