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ただいま、ぼくの恋人 現パロ

現パロ、書くの苦手…。


「ただいま」
 玄関を開けると、いい匂いがした。エースが用意している夕飯の匂いだろう。匂いを嗅いで、メニューの正体がわかるほど料理を作った経験がマルコにはなかった。
 チェーンロックをし、玄関先で靴を脱いだ。狭い2LDKのアパートでは、物音は筒抜けだ。キッチンからエースが顔を覗かせた。
「おかえり」
「ただいま」
 玄関先と同じ台詞をマルコは言った。にこりともしない。そんなことには慣れっこなので、エースは気にも留めず、飯もうすぐだから先風呂入れば?と呑気に告げた。おう、とも、うん、ともつかない返事をして、マルコは寝室に足を向ける。
 今年四十になる、これと言って取り柄のない、コネで市役所に就職したマルコの元で、まだ二十になったばかりのエースが同居することになったのは、二年も前の話だ。
 かつてマルコが世話になった恩人でもあり、寺の住職でもある白ひげことエドワード・ニューゲートから、預かってほしいと頼まれたのが切欠だ。正直、迷惑だったが、頼んできた相手が相手だっただけに、断ることが出来ず、渋々了承したのだった。
 エースは家族がいない。父親は行方不明で、母親はすでに死亡している。兄弟はいないそうだ。父親と知人でもあった白ひげが何かと面倒を見ていたらしいが、高校卒業と同時に独り立ちを申し出られたらしい。だが、就職先も決まらないまま放り出すのは心配で仕方なかったので、四十を過ぎても結婚する気を一切見せず、悠々自適な生活を送るマルコに白羽の矢を立てたということだ。
 マルコが独身なのは、ちゃんとした理由があった。ゲイだったのである。それは白ひげを知っていることなのに、前途有望な若者をマルコに預けることが解せなかった。手を出すはずがないと信頼されているのか、マルコにもよくわからなかった。
 いかにマルコといえど、好みくらいはある。白ひげのような頼れる年上の男性が好きなのだが、残念ながら、なかなか出会うチャンスに恵まれなかった。
 今現在、恋人と呼べる相手はいない。馴染みのバーに行けば、元カレのシャンクスやら、酔った勢いで時々ベッドを共にしてしまうバーの主人で友人でもあるサッチもいたが、どちらとも恋人と呼ぶのは躊躇ってしまう間柄であった。
 
 風呂からあがり、夕飯の席に着いた。缶ビールで乾杯して、さっそく箸をつける。秋らしく秋刀魚の塩焼きと、栗ご飯、汁物に豚汁、キャベツの煮浸しだった。
「今日、早かったな」
 栗ご飯を口の中に頬張りながら、エースが尋ねる。
 基本的に残業はないので帰宅は早いのだが、エースと同居するようになってからは、週の何日かはサッチの店に寄ることが増えた。以前は、週末にサッチのところに寄って泊るくらいだったが、おかげでサッチと寝る回数が増えてしまった。別にエースといるのが疲れるとか不満だとかそういうわけではない。むしろ居心地が良すぎて困っているのだ。
 エースとは単なる同居人である。恋人などではないし、エースに性癖を聞いたことはないが、ときどき女の影がちらつくから、ノンケであることは間違いないだろう。
 そんな相手と暮らし、居心地が良くなって、万が一にでもエースを好きになってしまっては、マルコの方が辛くなる。しかも二十も年が離れている。親子ほども違う。そんな子供相手に本気になれば、傷つくのは目に見えていて、年齢を重ねた今は、燃え上がるような恋をしたいとは思わないのだ。むしろ安心がほしい。穏やかに生活を営める相手と恋愛をして、一区切りつけたい気持ちの方が強かった。
 昔からマルコは男運がない。一番、最近の恋人が、シャンクスである。それでも付き合っていたのは五年前だ。シャンクスとのセックスは確かに気持ちよかったし、外見も好みだった。だが、シャンクスは誰にも本気にならず、浮気性であった。マルコが耐えられなかった。
 恋人として付き合うのは苦しかったが、友人としてのシャンクスは恋人以上に魅力的であった。楽しみを分かち合う相手として最適だったのだ。
 大学時代に知り合ったサッチとは、もう随分と長い付き合いになる。マルコにマルコ自身ですら気付いていなかった性癖を教えた男だった。そしてマルコの初体験の男でもある。付き合いだけは長く、未だに気が向けばセックスもするが、恋人として付き合うことはなかった。理由はわからない。マルコも望んだことがなかった。
「マルコ、ご飯粒ついてる」
 テーブルを乗り越えて、エースの指が伸びてくる。口の端についた米粒を拭った。
「あんた、ときどき子供みてェだよな」
 くすくすと笑って、米粒のついた指を舐めた。舌の動きに釘付けになる。
「もう食わねェの?」
 箸を止めたまま、マルコは動かなくなった。ひどく動揺して、カァっと身体が熱くなる。
「え、なに、なんだよ、マルコ、顔、真っ赤だぞ、熱でもあんのか?」
 目を丸くして、エースが腕を伸ばしてきた。触れる前にマルコが椅子を鳴らして後ろに下がった。
「危ねェって!」
 バランスを崩して椅子が傾く。慌ててエースが駆け寄って、マルコの腕を引いた。床に転がらずに済んだが、力が抜けてくたくたと床に膝をついてしまった。
「もう、なんだよ、今日、変だ…ぞ…」
 エースの語尾が掠れた。掴んだ腕の隙間から覗くと、マルコは耳まで真っ赤になっていた。離せ、と命じる声も力がなく、エースは背筋が震えた。二十も年の離れた男を可愛いと思ったのだ。
「もしかして、おれのこと意識してる?」
 しゃがみ込んで、マルコの顔を覗き込むが、今度は嫌がられた。なんだ、その仕草、超可愛い。
「……ねェ」
「なんだよ、聞こえねェよ」
「意識なんか、してねェよい!」
 勢い余って振り仰ぐ。正面から目が合った。マルコの顔は、熟れたトマトより真っ赤だった。
「そんなんで意識してねェとか反則じゃねェの。すげェマジ可愛い!だって、あんた、顔真っ赤だよ。なんだよ、あんた、マジ超可愛い…!」
「可愛いって、馬鹿かてめェ!」
 しかもマジ超ってなんだ、四十の男を捕まえて可愛いってなんだ、と言い返そうとすると、エースの腕ががっちりとマルコを抱き寄せた。そのまま床に引き倒し、問答無用でキスをされる。咄嗟のことに反応できず、半開きの唇の隙間から、にゅると舌が入り込み絡んできた。うっかり応えてしまってから、我に返り、エースの後頭部を殴りつけた。
「これから良いトコだってのに…、なに!」
「なにが何だよい!このクソガキ!」
「なにが何って、意味わかんねェーし!つか、あんたはおれが好き!おれもあんたが好き!何の問題もねェじゃん」
「いつおれがお前を好きっつったよい!」
「ついさっき、あんたの態度がそう言った」
「調子に乗るんじゃねェよい!」
 再び拳をあげると、エースは予想していたのか、難なく避けられて宙を切った。
「危ねっ、あんた、手早すぎだっつの」
「避けんじゃねェよい!」
「痛てェもん!避けるだろ!」
 頭を軽く振って、エースはマルコの腕を掴むと、床に縫い付け、上から顔を覗きこむ。
「なにが不満なの、おれが嫌?」
 真剣な声でエースに問われる。深黒の眼差しを見ていられなくて、マルコは首を動かし、エースの視線から逃れた。目の前に晒された首筋に噛みつきたい衝動を必死に抑えた。
「あんたがゲイなのは知ってるよ。オヤジから聞いてたしさ」
 エースの言うオヤジとは白ひげのことだろう。血の繋がった父親の事は「あいつ」と吐き捨てるように呼んでいたからだ。白ひげがマルコの性癖までしゃべったのかと少し恨みがましい気分になった。マルコは身じろぎすらせず、黙ったままだ。小さく息を吐く。
「あんたさァ、おれのこと覚えてなかっただろ」
 白ひげに引き合わされたときのことを言っているのだろうか。マルコは不思議に思った。
「……初対面だろい」
 ようやく返事があったが、顔はあげてくれなかった。
「違ェよ、ずっと昔に会ってんだよ。あんたは覚えてなくてもおれは忘れたことなかったよ。だから、オヤジにあんたと暮らしたいって頼んだ」
 エースの言葉に驚いて、マルコが顔をあげた。金糸の睫毛の奥から海の色が見える。
「やっとこっち見たな」
 掴んでいた腕を離し、輪郭に指を這わせて、金糸の髪を撫でた。
「あんたがゲイって聞いて、超ラッキーって思ったよ。おれにも可能性があるかもって思ってさ」
「ガキは趣味じゃねェよい」
「でも、おれのことちょっとは好きだろ?」
「その自信はどっから出てくるんだよい」
「もう二年も一緒に暮らしてんだよ。それくらい分かるよ」
 エースが目を細める。随分と大人びた笑みだった。
「おれじゃ駄目か?年の差で断ンのはやめてくれよ。そんなの答えじゃねェよ。おれさ、ずっとあんたが好きだったんだ、だから、あんたが嫌じゃないなら、おれにしてよ」
 マルコは何も言わなかった。真っ直ぐに黒瞳を見つめている。ただただ、エースを見上げている。うん、わかった、とエースは柔らかく笑うと、マルコの下唇を食んだ。舌先でノックすると唇が開いて、二人は深いキスをした。
 


 最近、マルコの帰りが早い。つい数日前までは週の何回かは深夜に帰宅することもあったのだが、エースが告白して以来、週末も家で過ごしている。だからといって、二人の間が何か変わったかというと、そうでもなかった。
 キスはする。唇をこじ開けて、舌を絡ませあって、唾液を混ぜ合う。マルコの鼻から抜ける息は、馬鹿みたいに可愛い。いつも我慢できなくなって、ハリウッドも顔負けな勢いで唇を貪るから、マルコの唇は真っ赤になった。それを見てまた堪らなくなり、キスをした。キスをしながら、股間を弄ると、前立てが膨らんでいる。ちゃんと感じて、勃起していた。マルコは服を脱ぐのを嫌がる。着衣したままでなければ、フェラチオさえ許してくれない。エースが好きだと告白する前は、風呂上がりには素っ裸で廊下を歩いていたくせに、好きだと言われた途端、ガードが固くなった。キスだって嫌々という顔をしている。何度もしているうちに甘くとろけてくるのだが、最初は絶対に嫌がった。とろんとなって、金糸の睫毛の奥の海が潤む瞬間は、堪らなく興奮した。
 別にエースとて好きだというわけではないが、マルコはフェラチオも嫌がる。自分がするのは構わないらしいが、エースにされるのが嫌なようだ。隙を見てケツの穴を弄られるからかもしれないが、明るいところでは絶対にさせてくれなかった。金糸の下生えから覗くぷるぷると打ち震えるペニスは、色んな意味で大変ご立派であったが、マルコとの表情も相まって、酷く愛らしく思えた。うっかりそれを口にして以来、消灯が義務付けられたのである。エースは抗議したが、聞き入れて貰えなかった。何より機嫌を損ねて、怪しげな交友関係を復活されるのが嫌だったのだ。
 マルコはエースの初恋の人である。当の本人、マルコは出会っていたことすら記憶になかったが、相手はすでに四十のおっさんだったので、記憶力も摩耗しているのだろうとエースは考えることにした。
出会ったのは、母親も存命で、父親もまだ家にいた頃だったと思う。あの頃は幸せだった。母親が死ぬまで、エースは幸せな子供だったのだ。
 当時、マルコは大学を卒業し、コネで市役所に勤め出したばかりだった。大学時代から暮らすエースの隣のアパートで生活していた。あとでオヤジから聞いたのだが、若い頃のマルコはヤンチャであったそうだ。エースが知っているマルコからは想像もつかない姿である。
 エースはまだ四つかそこらであった。早生な子供であった。初恋の切欠は、仔猫だった。エースは拾った仔猫を黙って飼っていた。そこは四つの子供のすることで、仔猫は育たずに死んでしまった。家に戻れず、死んだ仔猫の傍で泣いていると、マルコが隣にしゃがみ込んだ。スーツ姿だったから、仕事の帰りだろう。猫が死んだのか。ぽつりと呟いて、エースの頭を撫でた。お前、家は?マルコはエースのことを覚えていなかった。すぐ隣に住んでいるというのに、酷い話だ。……あっち。エースが答える。すると、ああ、あっちか、少し困った顔で笑った。
 猫は墓を作ってやればいいよい。近くのホームセンターでスコップを買って、二人で穴を掘った。今ほど規制が厳しくなかった頃だから、公園の隅っこに仔猫を埋めて墓を作った。マルコと一緒に手を合わせて、仔猫を悼んだ。
 帰りはあっちの方向へ、二人で手を繋いで帰った。母親が死ぬまでの、ほんの数ヶ月の間、マルコと過ごした。たくさん遊んで貰ったわけでもなく、ただの隣人に過ぎなかった。
 マルコを好きだと気付いたのは、散々あちこちを盥回しにされて、白ひげに引き取られた後だった。白ひげに引き取られてからも、マルコに会うことはなかった。数年が過ぎて、幼い初恋も記憶の中に埋もれていき、思い出すこともなかった。
 偶然、整理していた白ひげのアルバムの中に、マルコの顔を見つけるまで、エースは忘れていたほどだ。
この人、誰?写真を指さして尋ねると、生徒の一人だ、と白ひげは答えた。生徒って習字の?ああ、そうだ。白ひげは寺で習字教室を開いていた。その生徒の一人だったそうだ。
 食い入るように写真を見つめる。今もときどき習いにくるぞ。白ひげは笑って言った。好きなんだろうな。嬉しそうに呟いた。
 一緒に暮らしてから気付いたが、マルコが好きなのは習字ではなく、白ひげの方だったのだろう。白ひげを見つめる海の色は切なくて、エースは不愉快で仕方なかった。
 紆余曲折があり、白ひげに頼み込んで、マルコと暮らすことになった。嬉しかったが、マルコはエースのことを覚えていなかった。しかも初対面だと思っているくせに、エースのことを明らかに厄介者だと感じているのが、ありありとわかる態度だった。
 マルコの暮らす部屋は、想像より綺麗だった。ズボラでガサツ者だから、さぞや汚い部屋だろうと思っていたが、掃除するのが嫌だから、汚さないという面倒臭がりであったのだ。
 エースはアルバイトをしながら、家事をこなした。マルコは手がかからないし、寺での暮らしで自炊にも慣れている。概ね二人の同居は上手く行っていた。
 生活を共にすると、気付くこともある。マルコがゲイであることは前もって知っていたが、特定の恋人はいないくせに、ときどき男の匂いをさせて帰ってきた。
 匂いは二種類で、元カレのシャンクスと、親友と言っていたサッチのものだ。別れたはずなのにまだ寝てんのかと腹が立ったし、親友だと言いながら、実際は親友以上である関係に苛立っていた。

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