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ジョズとマルコ①

例によってリサイクル

 ゆらゆらと水面が光る。
 花々に彩られた島に錨をおろしてから、もう2日が過ぎていた。
 頂上戦で、白ひげを失った後、赤髪に守られるようにして、領海にある、この島へ辿り着いた。
 美しい花が咲く、この島は、家族が眠る場所だ。
 多くの息子達が眠る島で、永の旅路につくのは、白ひげも本望だろう。
 あの偉大な父親は、マリンフォードを死に場所と決めていた。
 老いて朽ちていくよりも、エドワード・ニューゲートとして、海賊白ひげとして、死ぬことを望んでいた。
 偉大な父親を愛する息子達は、少しでも彼に長く生きてほしかった。
 出来ることなら、1日でも長く生きていてほしいとマルコも願っていた。同時にそれが叶わないことも知っていた。
 多くの負傷者を乗せ、島に辿り着いた。マルコは心身ともに疲れ果てていたが、その肩にのしかかった責務を放棄することはできなかった。いかに隊長が同格とはいえ、実際の采配はマルコがふるうしかなかった。
 オヤジを失い、その後始末に奔走し、マルコは悲しみを消化することすらできない。涙など枯れてしまった。疲れても眠ることすらできない。

 光が乱反射する水面から、室内に視線を移した。
 ベッドの上には、片腕を失ったジョズが眠っている。傷だらけの体躯が運ばれてきたとき、マルコは声を失った。家族を失う覚悟はしていた。けれど、白ひげを失って、更にジョズまで失いたくなかった。
 ジョズまでも失うかもしれない。身の内を侵食する恐怖に耐えきれなくなって、マルコはひたすら仕事に没頭した。わざわざマルコがするまでのない仕事まで引き受けて、一心不乱に身体を動かし続けた。
 青白い顔で働くマルコの体調を気にして、休むようビスタに言いつけられる。
 平気だ、と抗議しても、ビスタは譲らなかった。日頃、彼はマルコをからかうことはあっても、その意思を違えさせたことはない。マルコの抗議にも耳を貸さず、休むよう諭した。ビスタの目の奥に、マルコを案じる色を感じとって、唇をかむと、小さく頷いた。

 一人でいても苦しくて、ジョズの傍にいれば、不安で堪らなくなる。
 それでも一人になるのは嫌だった。ふらふらと頼りない足取りで、ジョズの部屋に向かう。ドアをあけると、室内は静まり返っていた。
 ジョズの眠るベッドの脇の椅子に腰かけて、彼を見つめていた。
 まだ目を覚ます気配はなかった。早く目を開けて、名前を呼んでほしかった。生きている証を見せてほしい。
そっとベッドに近づき、やつれた頬に触れる。硬い感触は変わらない。
 ジョズの瞼が小さく震える。瞼の奥から、懐かしい眼差しが見えた。
「ジョズ…!!」
 掠れた声で叫んだ。震える指先でジョズの顔をなぞる。
「おれは…、どうしたんだ?」
 目覚めたばかりで覚束ない思考を手繰りよせる。真っ直ぐに見つめてくる海の色に、涙の粒が浮かんできた。慌てて腕を伸ばそうとすると、そこにあるはずのものがないことに気づいた。ああ、そうだ。腕を失ったのだ。
「…泣くな」
 ジョズの干からびた声を聞いて、涙がとめどなく溢れだした。
「お前まで居なくなるつもりだったのかよい…!」
 悲痛な響きだった。あのマルコがまるで子供のように泣いている。ぽろぽろと涙をこぼし、何度も拳で顔を拭う。ジョズの胸は酷く痛んだ。マルコにこんな顔をさせるなんて、有り得ない失態だ。白ひげを失っただけでも辛いはずのマルコを泣かせてしまった。
「すまない」
 残された腕を伸ばすと、マルコの顔を撫でる。ジョズの掌を感じて、マルコが顔をあげた。しばらく見つめ合うが、マルコは何も言わず、ジョズの掌に顔を摺り寄せた。
「生きててよかった…」
 小さな声がジョズの耳に届いた。

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