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※にょたです。リサイクル。
白み始めたばかりの空は、まだ薄暗かった。
夕方、ふらりと一人で街へ出かけて、一晩を過ごし、朝方になって、マルコが船に戻った。
せっかくそれなりに大きい島だというのに、サッチは運悪く船番で花街に行けなかった。寝ずの番を終えて、自室へ向かう途中の通路で、女だてらに一番隊を預かる、親友のマルコの姿を見かけた。 名前を呼ぶと、マルコの歩みが止まる。振り返ったその顔は、化粧をすっかり落とし、素顔になっていた。
「これはまたお早いお帰りで」
声をかけると、マルコは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。この様子では、サッチに会うまえに、他の誰かに忠告されたらしい。そんな命知らずは、サッチの他にはイゾウと決まっているので、十中八九、彼に違いない。
白ひげ海賊団の一番隊を預かる、サッチにとっては親友のマルコは、文句なしに美しい女だった。
柔らかな金糸の髪と、眠そうな瞼の奥の海の色にも似た青は、ひどく美しく、人々魅了する。男好きのする、ぽってりとした厚めの唇も、むしゃぶりつきたくなる。胸のサイズは小ぶりだが、形もよく、鍛えられているだけあって、きれいなまるみを保っている。
なだらかな曲線を描く腰の細さや、つるりとしたしなやかな脚線美も、堪らなく魅力的だが、如何せん、外見に似合わず、百人もの猛者を従えるマルコは、中身が強烈だ。美しい外見の魅力を損なうほど、粗雑で暴力的な女なのだ。
「そりゃァ嫌味のつもりかよい」
「これくらいで嫌味に取られちゃ立つ瀬ねェな」
壁板に凭れて、サッチが苦笑いを浮かべる。
文句なしにマルコは強いし、背中を預ける相手として不足はなかった。心配なのは、海賊としてのマルコではない。女としての、親友としてのマルコの振る舞いの方だ。
「おまえはおれの母ちゃんかよい」
ときどき、サッチはマルコを心配して、それとなく忠告してくる。
十代やそこらの小娘の時分なら、いざ知らずもういい歳の大人だ。若い頃の、無茶を知っているサッチは、未だにマルコの行動に気を揉んだ。迷惑とまでは言わないが、時折、鬱陶しく感じてしまう。見下ろしてくる男から、視線を逸らした。
「おれが母ちゃんなら嫁入り前の娘を夜遊びに出さねェよ」
「何が嫁入り前だ。嫁に行く気なら、とっくにいってるよい」
まあそれは正論だ。もう三十路を越えたマルコは、嫁にいってもいい年齢ところか、行きそびれている感がある。それに海賊なんて生業で、まともに相手を見つけて、所帯をもっている奴など稀だ。いつ何時、海の藻屑となって消えるかもわからないのに、家族を持つなど夢のまた夢だ。中には、家族をもつ者もいるようだが、そんな奴は滅多にいない。
「しかし、化粧落とすと酷ェ面だな」
まじまじと顔を見つめて、サッチは随分と失礼な台詞を吐いた。もちろんそれはサッチの本心ではない。サッチは誰よりもマルコを美しいと思っているし、妹のように大切にしている。
サッチの思いとは裏腹に、マルコはあまり自分の外見が好きではなかった。
海賊女帝と名高いボア・ハンコックのように絶世の美女だと思わないし、どちらかといえば不細工だとも思うが、それを他人から指摘されるのは面白くない。
怒りにまかせて、サッチの脛をサンダルの踵で蹴りつける。見事に当たって、サッチは大げさに声をあげ、脛を抱え込んだ。
「覇気使うなよ!」
上目使いの眦に涙の粒が浮かぶ。手加減なしに蹴ったので、よほど痛かったらしい。
腰に手を当てて、サッチを見下ろしている。仁王立ちになった親友を見上げて、わずかに眉間に皺を寄せる。トントンと自分の首筋を指で叩いた。
「なんだよい」
「すげェ痕ついてんぞ。どんな動物とやってきたんだよ」
首筋から胸元にかけて、無数の吸い痕がついていた。中には歯型まである。
「……覚えてねェよい」
「また酔っ払って、適当なのとやったんだな。ちったァ反省しろ。この馬鹿女」
「適当なのじゃねェよい。ちゃんと選んだ。年は若ェが、身体は好みだった」
「身体で選ぶんじゃねェよ」
「他に何で選ぶんだよい。馬鹿いうない」
「どうせ面は覚えてねェんだろ」
「面は覚えてねェが、童貞だったよい。不器用に乳を揉まれてな、笑うのを堪えるのに必死だったよい」
「マジで自重してくれ」
ぽつりと呟くと、サッチは大きな溜息をついた。
それから数日経って、七武海に勧誘されたルーキーが白ひげに挑んできた。大地を真っ赤に染め上げる炎はロギアの能力者であることを教えてくれる。
甲板上から白ひげに遊ばれているルーキーの顔を眺める。ふとマルコはどこかで見たような気がした。
「どっかで見たことあるよい」
縁に肘をついて、マルコがぼやくと、サッチは苦笑する。
「手配書だろ、結構、賞金も高ェぞ」
「いや、手配書じゃねェよい」
「だったら、お前の寝た男なんじゃねェの」
「あんなのと寝たら、さすがに覚えてるだろい」
「どうかねェ、お前、いつも泥酔してんじゃねェか」
肘のうえに顎を乗せて、後ろ足で宙を蹴った。頭の隅に引っかかっているのに、取り出せそうもない。マルコが唸っていると、サッチが軽く肩を叩いた。つられて顔をあげると、地面を指さされる。
「オヤジが勧誘してるぞ」
「……やけに嬉しそうだよい」
「なんだァ、嫉妬か」
「うるせェよい!」
マルコは唇を尖らせて、サッチの脹脛を蹴りつけた。
モビーディック号で生活している間は、マルコはノーメイクである。
長い航海で、女を意識させないためでもあったが、徒労に終わっている。マルコが美しいことは隠しようのない事実であったし、どんなに無碍に断られても、マルコに求愛してくる者は後を絶たなかった。
下調べのために、船を離れていたマルコが戻ってきた。余所行きように化粧を施している。ジョズと打ち合わせをしながら、食堂へ入ると、そこには新入りのエースとスペード海賊団の仲間達の輪に加わったサッチがいた。 マルコに気付き、サッチが片手をあげる。ジョズに資料を渡して、サッチの元へ歩み寄った。すると、料理を平らげていたエースが、マルコの顔を見つめ、目を見張った。
「あ!あんた!」
化粧を施したマルコの顔を見て、エースが指をさし、大声をあげた。さされた指を叩き落として、マルコが眉を寄せる。
「あんた、あのときの女だろ!」
「あのときって何のことだよい」
「おれの…、おれの童貞を奪った女だ…!」
エースの叫び声に、食堂にいた家族全員の視線がマルコに集中した。エースの隣で地酒に舌鼓を打っていた、サッチはぶはっと吹き出した。
「奪っただァ?童貞なんざ後生大事にとっとくんじゃねェよい」
「初めてだったのに!あんな…あんな…!」
真っ赤になって、エースは両手で顔を覆った。不明瞭な言葉をつぶやいている。
「おまえ一体なにしたのよ」
「覚えてねェよい」
「……マルコ、おまえ責任とれよ」
「最悪だよい…」
片手で瞼を覆って、マルコが天を仰いだ。深い溜息を吐いて、エースの旋毛を見下ろすと、苛立たしげに黒い頭を叩いた。小気味よい音を立てる。痛みにエースが顔をあげると、マルコと目が合う。
途端に、あの夜のことがエースの脳裏に浮かぶ。
白い乳房にむしゃぶりつき、マルコに導かれて射精した。今は意地悪く歪んだ唇の、やわらい感触と甘さを思い出し、どくん、と鼓動が激しく脈打つ。 顔ばかりか、エースの全身が真っ赤になった。
いきなり室内の温度があがる。気付いたサッチが制止する間もなく、エースは全身炎となって燃え上がり、辺り一面を火の海に変えた
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