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堪らなく愛しい

こういう展開予定ではなかったのですが、なんでだろう、わからん。

ずっと私は、エースとエースに関わった人々との距離感がわからなくて、ガープとエースであったり、ダタンとエースであったり、ルフィとエースであったり、サボとエースであったりと、エースが一人一人に対して、どんな気持ちを抱いていたのかなあと考えたりします。
原作における人間関係って、薄味ですよね。仲良かったって台詞ひとつで、絵ひとつで終わったりして、どんなふうに仲良かったのかとか、あまり伝わってこなくて難しいですよね。




 グランドラインでは何が起こるか分からない。
 それはある意味、船乗りにとって常識で、非常識であった。
 モビーディック号の甲板のうえで、エースは途方に暮れていた。目の前で起きた事柄を認識したくない一心で、あれほど理知的で冷静なマルコも心が現実逃避していた。甲板のうえで、呆然と立ち尽くしている。
「どうすんだ、これ」
 考えることは苦手な分、立ち直るのが早く、行動に迷いがないのがエースのよいところだ。
「どうしたものか、おれにもわからん」
 顎を撫でて、ジョズが答える。本当に困っているようだ。
「グラララ、どうした?何があった?」
 特徴的な笑い声は白ひげのものだ。騒ぎを聞きつけて船長室からわざわざ歩いてきたようだ。
「オヤジ!」
 慌ててエースは走り寄る。大きな身体を見上げて、ほっと胸を撫で下ろす。
「オヤジは無事だったんだな」
「無事ってのはどういうことだ?」
「見てくれよ」
 甲板から一人の赤ん坊を抱き上げた。指をしゃぶる赤ん坊には見覚えがあった。鳶色の髪に緑色の瞳、凛々しい眉毛に人を食ったような顔立ちは、サッチによく似ていた。
「まさか、サッチか?」
 恐る恐る尋ねると、「正解」と言って、エースは笑う。
「一体どうしちまったんだ」
 白ひげが周囲を見渡すと、甲板の上には赤ん坊だらけだ。赤ん坊だらけの甲板で、途方に暮れたような顔で立ち尽くす息子達の姿が目についた。その息子達は皆、悪魔の実の能力者だ。
「皆、赤ん坊になっちまったのか?」
 白ひげの声を聞いて、マルコは我に返った。自失している場合ではない。
「そうみてェだよい」
 オレンジ色の髪をした赤ん坊を抱き上げて、マルコは複雑な顔をした。
「能力者以外は皆、赤ん坊になっちまったんだ」
「原因はなんだ?」
「わからねェ…が、おそらくあの霧じゃねェかと思う」
「あの霧?ああ、数時間前に通り過ぎた海域のか?」
 ポン、と手を叩いて、ジョズが言った。マルコは静かに頷く。
「厄介だな」
「まったくだ」
 赤ん坊になったのは、本船に常駐していた家族だけだった。
 赤ん坊にならずに済んだ家族達を呼び集めたが、五十人にも満たなかった。三百人近くいる赤ん坊の面倒は残された家族でやらなければならない。隣り合った同士、顔を見合わせ、厳つい男共は深い溜息をついた。



「すげェよなァ」
 突然、エースは感心したように、大きな声で呟いた。うんざりした顔でマルコは手を止めたが、すぐさま作業を再開した。
 ブスくれたマルコの横でエースがおしめを取り換えている。最初は覚束ない手つきだったが、この三日ですっかり慣れてしまって、お手のものだ。
 その横で手際よくジョズが赤ん坊を風呂に入れて、入浴が済んだ者から、白ひげが寝かしつけていた。マルコは積み上げられた洗濯物を片づけている。この三日間で四人は赤ん坊の世話に慣れ始めていた。
「なんだ?エース」
 エースの呟きに返事をしたのは、白ひげとジョズである。マルコは目線を投げつけたが、何も言わなかった。マルコから返事がないのは不満だが、この三日の間、マルコの機嫌はすこぶる悪かった。
 白ひげは鷹揚と構え、もとから赤ん坊が好きだし、赤ん坊になったのが息子達ということもあって、赤ん坊の世話にも前向きであった。ジョズは顔に似合わず優しい性質なので、率先して白ひげを手伝い、世話を焼いた。難しいことを考えるのは苦手だが、順応能力には定評があり、元から長男気質なエースも、迷わず赤ん坊の世話を買って出た。エースの家事能力の高さは、大変、役に立っている。一方、末っ子気質の長男は、大勢の赤ん坊に囲まれて、明らかに戸惑っていた。
 古株の家族の中では、マルコは末っ子であった。白ひげ海賊団が大きくなるまで、随分と長い間、彼は弟の立ち位置にあった。
 白ひげの名が売れて、次から次へと息子を増やしていくうちに、船団が大きくなり、今のような大所帯になった。家族が増えれば揉め事も起きるようになるし、海賊団そのものの運営も大がかりになる。その能力値の高さから、マルコは一目置かれるようになり、隊長達に名目上の序列がないが、船の運営についてはマルコが采配を振るうようになっていった。末っ子でいることが出来なくなった。
 そうした事柄において才能を発揮するが、それ以外では物臭である。
 人の世話を焼くよりは焼かれる方が好きだった。立場上、そんな様子は少しも見せないが、気を許した相手の前では末っ子気質を丸出しで、白ひげはそれを可愛がるし、ジョズが我儘を許すから、マルコは頼れる大人であると同時に頑是ない子供みたいな部分も持ち合わせていた。
 
 エースは生来の世話焼きである。破れ鍋に綴蓋というべきか、マルコの末っ子気質を知らず知らずに嗅ぎつけていた。ナイフ時代はともかく、家族になってからのエースの振る舞いは分別のついた大人であったし、よく気が利いたから、マルコも感じるところがあったのだろう。どちらとも無意識に近付いて親しくなっていった。
 船の運営に関る部分は別として、私事にまつわる事柄において、二人の立場は逆転していた。
 二十も年が離れているくせに、エースはマルコの面倒を見ていた。サッチなどから言わせれば面倒臭いだけのマルコの勝手気ままをエースは可愛い我儘と捉えていた。
 四十を過ぎた男の勝手気ままを可愛い我儘と思えるエースをサッチは呆れた目で見ていたが、本人がいたって楽しそうであったので、放っておくことにした。だが、そのサッチも一度だけ尋ねたことがある。マルコの気侭のどこが可愛いのかと。エースは小首を傾げて、数秒が考えた。
「マルコってさ、嫌いな奴に我儘言わねェじゃん」
 え、そこ?と思ったが、懸命にもサッチは口にせず、小さく頷いた。
「だからマルコがおれに我儘言ってる間は、おれのことが好きなわけだろ。我儘言ってくるうちは安心していられる」
「マルコに好かれて何の得があるんだよ」
「得はしねェけど、損ってわけでもねェし」
「損だろ!損だよ、あいつの我儘、面倒くせェだろ」
「可愛いよ、あんなの全然、可愛いって」
「おまえの言うことは時々よくわからねェよ」
「あんなに強くてさ、なんでも出来て、大人って顔しててさ、子供みたいな我儘言ってんの、可愛いだろ」
 エースは懐が広いのか、趣味が悪いのか、サッチには判断がつかなかった。
「……あ、そう」
 サッチはそう言うのが精いっぱいだった。
 

 エースの悩み事をたくさん聞いてくれて、ときにはアドバイスをくれるサッチは、今は無邪気な赤ん坊だ。鳶色の髪は柔らかく、肌もつるりとしている。いかにサッチといえ、赤ん坊の頃は愛らしくあどけなかった。
「あのサッチがこんなに可愛い」
 サッチのおしめを換えて、鳶色の赤ん坊を抱き上げる。キャキャと笑う赤ん坊は、誰が見ても愛らしかった。
「グララララ、確かにな」
 白ひげは破顔し、ジョズは微苦笑した。三人が談笑している間、黙って手を動かし続け、マルコは何か言いたげにエースを見つめていた。
 


 エースとマルコの間には、サッチとハルタが眠っている。マルコは赤ん坊とエースに背中を向けていた。面倒を見る気はないのだろう。
 二番船、三番船からも応援がきて、手分けして赤ん坊を寝かしつけている。白ひげやジョズはもっと多くの赤ん坊を面倒みているが、どうにも子供が苦手なマルコは、添い寝を免除されている節がある。結局、マルコの末っ子気質は、彼を甘やかす人々によって助長されているようだ。
「なあ」
 薄闇の中、エースの声がした。二人と赤ん坊しかいないベッドでは、無視することも出来なかった。寝がえりを打って、エースに向き直る。海の色のような深い青は、薄闇の中でも、不思議な輝きを持っていた。その色がエースは好きだった。
「赤ん坊ってすげェな」
 特に意味はない。まだ青い色を見ていたかった。だから何か話をしたかった。
「すげェうるせェって意味なら、頷いてやるよい」
「確かにうるせェけど」
 呆れた声で肯定し、エースは言葉を続けた。
「あんた、文句いうほど面倒見てねェじゃん」
「向いてねェんだよい」
 エースの尤もな指摘に、マルコは拗ねたように唇を尖らせた。
「ダダンがさ」
 突然、エースが話し始める。ときどき脈絡もなく、普段は口に重石をしているはずの、エースの過去について話をすることがあるのだ。
 ダダンってのは誰だ?と言いさして、マルコは言葉を飲みこんだ。話の腰を折りたくなかったのだ。
「あ、ダダンってのは、おれの育ての親になるのかな…?コルボ山を根城にしている山賊でさ、ジジイからおれを押し付けられたんだ」
 マルコの困惑を読み取って、エースが簡単に説明した。
「ジジイの方は知ってるよな?」
 そう問われたので、マルコは頷いてみせた。
「赤ん坊の頃のことなんか覚えてねェんだけど、ダダンもこんなふうに面倒を見てたのかなって思ったんだ。小せェ頃は嫌な奴らだと思ってた」
 エースは笑った。随分と大人びた笑みだった。
「でもさ、厄介者の赤ん坊を押し付けられて、よく死なせなかったと思うよ。こんな大変で面倒でさ、おれは家族だから赤ん坊のサッチも可愛いけど、ダダンからしたら、おれなんか可愛くもなんともねェよな」
 なんとも複雑な表情で、エースは口元だけ笑みを浮かべていた。マルコには慰めの言葉すら浮かばなかった。
「それなのに育ててくれたんだなと思ってさ、変な気分になっちまったんだ」
「……おまえが赤ん坊になっちまったら、おれが世話してやるよい、だから安心しろ」
 マルコは普段と変わらぬ調子で言えたことに安堵した。
「えっ、マルコに世話になるの?嫌だよ、あんたの世話じゃ赤ん坊のおれが可哀そうだろ」
「どういう意味だよい」
 エースの言い分は尤もだったが、改めて指摘されると腹が立った。
「聞き返してくるの?言わなくてもわかるだろ…、ッて!」
 弁慶の泣き所を蹴られて、じんじんとエースの足が痺れた。痛みを堪えながら、エースは文句を言い募っていた。
 エースの過去は、マルコの心を重くした。明るく振る舞うその裏で、どれほどの苦しい思いをしたことだろう。
 ――――あんたの我儘は好きだよ、好きなやつにしかしないってわかってるから、安心する。
 二十も年上の男に好かれて安心して、そんなエースの寂しさが哀れだった。
「もう寝る?」
 エースの指が伸びてくる。愛おしさを隠さない指先は、優しくマルコの頬を撫でた。
「おまえも寝ろ」
 エースの手をとって、マルコはその指先に唇を寄せた。なんの慰めにもならないと知っていた。けれど、そうすることが正しいような気がした。
 うん、とエースは小さな声で頷くと、柔らかく笑ってみせた。
 ――――堪らなく愛しい。
 泉のように湧きあがる感情に、マルコは動揺した。
 胸に湧いた愛情を伝える術がマルコにはわからなかった。ただただエースを見つめ、指先に繰り返しキスをした。



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