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メモ①

メモです。



 エースが放った一言で、マルコが呆れた顔をした。
 無精ひげの生えた顎に手を当てて、溜息をつく瞬間が、堪らなく嫌いだ。
 海を思わせる青瞳の奥で、うんざりと言いたげな色が滲んでいた。
 つまらない口論だったのだ。口論にすらならなかった。マルコはエースの意見を一蹴すると、その話は終いだというふうに、話を打ち切ってしまった。エースは悔しかった。
 大人ぶって、実際にマルコはエースよりもずっと大人で、なんだって知っていて、それでもマルコのそういう態度は鼻についたし、言いたいことは山のようにあるのに、いつだってエースに何も言わせてくれなかった。
 今だって、呆れた顔で溜息をつくと、エースを一瞥して、また仕事に戻る。
 その書類が急ぎじゃなくて、別に一年後でもいいくせに、エースとしゃべるのが嫌だから、面倒だから、マルコはそうやって仕事をするふりをした。
 エースがそこにいないような素振りをするくらいなら、出ていけと怒鳴られた方がずっとマシだ。
 けれど、マルコは絶対にそんなことを言わなかった。エースが勝手に出て行くのを待っている。エースが出て行って、一人になるのを待っていた。
 ――――そんなに疎ましいなら、相手をしなきゃよかったんだ。
 エースは唇を噛んだ。
 ――――適当にあしらっておけばよかったんだ。オヤジに頼まれたからって、おれの面倒を見なきゃよかったんだ。
 鼻の奥がツンとして、喉が痛くなった。泣くのを我慢すると、じくじくと痛み出し、制御できない感情が噴き出してくる。それすらマルコにはどうでもいいことで、そんなふうに思うとますます涙が溢れそうになった。
 ふいに抱き寄せられて、エースは肩を震わせた。
「……おれが悪かった」
 抑揚のない声が響いて、黒いくせ毛の頭を抱いた。深い溜息をつく。
 悪いなんてこれっぽっちも思っちゃいないくせに、この場を収めるためだけに、泣く子供を慰めるためだけに、マルコはそうやって嘘をつく。
 マルコが口にする、謝罪が慰めが愛情が、全部嘘だってわかってるのに、エースは大きな手の体温に安堵した。
 マルコに嫌われるのが怖かった。呆れられるのも怖かった。
 何よりも「お前なんかいらない」と言われることが、一番怖くて堪らなかった。
 宥めるように指が髪を掻き乱す。その優しさが苦しくて、エースは嗚咽漏らした。

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