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ピカピカ

朝、食器を洗っているときに思い浮かんだのですが、実際に書いてみたら、なんかちょっと違うものになりました。おかしいな。



  ドアをノックする音がした。ドンドンッ、とドアの下の方で鳴った。足でノックしているのだろう。
「……入れ」
 書類から目をあげて、マルコは入室を許可した。するとドアの向こうから、エースが声をあげる。
「開けてくれよ」
「てめェで開けろ」
「自分で出来るならノックなんかするかよ!」
 そう言うとエースは、ドアを蹴った。ドンドンドンと蹴られて、マルコは舌を鳴らし、ドアまで歩く。声もかけずにドアを開くと、そこには山盛りの料理が乗ったトレイを右手に、丸ボトルを数本左手に持ったエースが立っていた。
「酒盛りなら自分の部屋でやれ」
 エースを眺めてから、マルコはドアを閉めかけると、エースの足がそれを防いだ。
「ちょっ!なにすんの!」
「それはおれの台詞だよい」
「いきなり閉めるとかあり得なくね!?」
「たった今、あっただろうが」
 力づくでドアを閉めようとすると、エースが絶妙なバランスで防いでいた。
「丸ボトル!」
「それがどうしたよい」
「椰子酒じゃねェんだって!」
 ドアを閉めようとする力が弛んだ。その隙にエースは室内に半身を乗りこませる。
「……ワインか?」
「そうじゃねェのかなあ?よくわかんねェよ」
 エースを見下ろして、マルコは無精髭の生えた顎をなぞった。
「よし、入れてやる」
 椰子酒以外の酒に興味をそそられたのか、マルコはドアから離れた。
 



 組立式の簡易テーブルをセットして、料理を置くように指示した。指示に従って料理を並べ、丸ボトルを置く。そのうちの一本を手にとって、マルコはラベルを読んでいた。
「コップ使っていい?」
 作りつけの棚に近付いて、エースが尋ねると、マルコは目線だけで頷いた。またすぐにラベルに戻る。
 食堂で使う食器類は、コックや食堂の仕事に従事する者が片付けるが、個人的に使うものについては、自分で管理することになっている。隊長達は部屋を与えられていたから、酒や嗜好品を個人で貯蔵していた。それらを飲食するための食器類は、自分で管理しなければならない。
 マルコの部屋の棚には、様々な形のグラスが並んでいた。人から贈られたものや、気に入って買ったものもある。形がすべてバラバラなのは、セットで買わないからだ。一人で使うものだから、いつもマルコは一つだけ買う。
 そんな中で唯一お揃いなのが、エースが買ってマルコの部屋に置いたグラスだけだった。美しい意匠を一目で気に入って、エースが買った。グラスを手に取り、エースはしげしげと眺める。
 マルコの部屋のグラスは、どれに綺麗に磨かれて、指紋ひとつない。室内は雑然としている―――マルコに言わせると使いやすく整頓されているらしい、部屋でここだけ何故かいつもピカピカだった。
「今日もピカピカしてる」
 エースの呟きは、思いのほか大きな声だった。マルコはラベルから目をあげて、エースを見やった。
「ピカピカ?」
 マルコから問われて、エースはグラスを持ち上げてみせた。
「マルコのコップ、いつもピカピカだろ?」
「ピカピカねェ」
 エースの表現が少し幼い気がして、マルコはおかしくなった。こういうところが皆がこぞってエースを弟扱いしたくなる所以なのだろう。
「エース、早く持って来い」
「あ、うん、今行く」
 マルコに急かされて、エースはグラスを二つ持つと、テーブルに走り寄ってきた。
 


 ピカピカのグラスにワインを注いだ。薄いピンク色の液体は、グラスの中で泡立っていた。
「ビール?」
「ワインだよい」
 乾杯もせずにマルコは一口含んだ。
「おまえでも飲めるよい」
 マルコのお墨付きを貰って、エースは口をつける。軽い口あたりで、酒が苦手なエースでも飲みやすかった。
「マルコの部屋で飲むとうまい」
「どこでも一緒だよい」
 一人で三本目を空けて、マルコは笑った。少し酔いが回って機嫌がいい。エースはワインを程々にして、持ち込んだ料理を頬張っている。マルコには生ハムとチーズを用意した。
「コップがピカピカだからかな」
「おまえはちゃんと洗わねェからだろい」
「洗ってもこんなにならねェよ」
「洗った後拭かねェんだろ」
 図星だったので、エースには返す言葉がなかった。
「うまい酒は、いいグラスから」
 歌うようにマルコは言った。おかしくなって、エースが笑う。
「ビスタの受け売り?」
「似たようなもんだよい」
 グラスを傾けながら、エースを見つめた。
「実際、うまいんだろ?エース?」
 楽しそうにマルコは笑う。素直に認めるのは癪だったが、マルコの部屋で、マルコのグラスで、マルコと飲むのは格別だったので、酒精に潤んだ青瞳を見つめながら、エースはゆっくりと頷いた。


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